先に、いちばん大事なこと
仕入価格が動く理由は、たくさんあるように見えて、実は4つしかありません。
エネルギー
原油・ガス
為替
円安・円高
自然
天候・病気
人
人手不足
どんなニュースを見ても、「これはこの4つのどれだ?」と当てはめるだけで、自分の店にどう来るかが見えます。
以下は、その4つが具体的にどう伝わってくるかの地図です。
原油 — いちばん遠くから、いちばん広く来る
ホルムズ海峡は、世界の石油の多くが通る細い海の道です。ここが不安になると、原油の値段が上がります。
日本は石油をほぼ全部輸入しているので、その影響がまるごと入ってきます。
原油が上がると、こう伝わります
トラック・船の燃料代
プラ容器・ラップ・袋・トレー
電気・ガス(火力発電の燃料)
漁船の重油。魚が高くなる
ここが見落としやすい
原油が上がると、野菜も肉も魚も、全部が同時に上がります。 「一つの材料が高い」ではなく「全部が少しずつ高い」という形で来るので、原因に気づきにくい。ツールの②の「材料費が全体で+◯%」のスライダーは、この形の値上がりを見るためのものです。
天然ガス — 肥料を通って、野菜と肉に来る
これは知っている人が少ない経路です。化学肥料の窒素は、天然ガスから作られます。
ガスから、キャベツと豚肉へ
キャベツ・玉ねぎ・青ねぎ
とうもろこし・大豆かす
飼料はほとんど輸入です。だから天然ガスと為替の両方に引っぱられます。
「卵が高い」というニュースの裏には、ガス・為替・鳥インフルエンザの3つが重なっていることが多いです。
為替(円安) — 輸入品のすべてに、同じ倍率でかかる
円安は、輸入するものの値段に、まるごと倍率をかけます。
円安のかかり方
生地・生麺の原料
→ 豚肉・卵
→ 食用油
輸入が多い
小麦だけは、動くタイミングが決まっています
輸入小麦は、政府が製粉会社に売り渡す仕組みになっていて、その価格は年2回、決まった時期に見直されます。つまり「いつ動くか」が事前に分かる、めずらしい材料です。改定の発表を見たら、生地と麺の原価を書き換えるタイミングです。
天候 — 一つの材料が、急に跳ねる
猛暑・長雨・台風・暖冬。これは「全部が少しずつ」ではなく、「一つが急に2倍3倍」という形で来ます。
天候の来方
ツールでの見方
この形の値上がりは、②の「この材料だけが+◯%」で見ます。キャベツを選んで+100%にしてみてください。お好み焼きはキャベツの比重が大きいので、 1品でも原価率がはっきり動きます。どこまで耐えられるかを、先に知っておけます。
天候による値上がりは、たいてい数週間から数ヶ月で戻ります。
だからここで売価を上げるのは、判断を誤りやすいです。慌てて上げると、戻ったときに下げられません。
戻らないのは、原油・為替・人件費のほうです。この違いは大きい。
人手 — 静かに、でも戻らない
最低賃金の引き上げ、トラック運転手の労働時間の規制、募集しても人が来ない。これは一度上がると、下がりません。
人手が仕入に来る道
送料無料の条件が厳しくなる
作る人の人件費が乗る
ここだけは、原価では受け止められません
人件費は固定費です。だから原価計算ではなく、③の「固定費」と「必要月商」で見ます。人件費が月3万円上がったら、必要月商はいくら増えるか。③に3万円足して確かめてください。
平均原価率30%なら、3万円の人件費増は、約4万3千円の売上増を要求します。
来風の材料は、何で動くのか
自分の材料に当てはめると、こうなります。ニュースを見たとき、どこを書き換えるべきかが分かります。
| 材料 | 主に動かすもの | 動きの形 |
|---|---|---|
| 小麦粉・生麺 | 輸入小麦(為替)+政府売渡価格の改定 | 年2回、段階的 |
| キャベツ | 天候・肥料 | 急に跳ねる。戻ることも多い |
| 豚バラ肉 | 飼料(輸入とうもろこし)+為替 | じわじわ、戻りにくい |
| 卵 | 飼料+為替+鳥インフルエンザ | 病気が出ると急騰 |
| えび・いか | 為替+燃料(漁船の重油)+漁獲量 | 変動が大きい |
| ソース・マヨネーズ | 原料(野菜・砂糖・油・卵)+容器(原油) | メーカーが年1〜2回改定 |
| 食用油 | 大豆・菜種(為替)+輸送(原油) | 原油と連動しやすい |
| 青のり・削り粉 | 漁獲量・海水温+燃料 | 数量が少なく振れやすい |
| 電気・ガス | 原油・天然ガス+燃料費調整 | 数ヶ月遅れて反映 |
| 容器・持ち帰り袋 | 原油 | 原油に素直に連動 |
時間差 — ニュースは「予告」です
ここが一番使えるところです。ニュースが出た瞬間に仕入が上がるわけではありません。届くまでに時間がかかります。
天候による野菜
1〜3週間
原油 → 物流・包装
1〜3ヶ月
為替 → 輸入品
3〜6ヶ月
飼料 → 肉・卵
半年〜1年
つまり「原油が上がった」というニュースは、「2〜3ヶ月後に仕入が上がる」という予告です。
まだ上がっていないうちに、②のスライダーで確かめられます。これが、この構造を知る一番の値打ちです。
やること
ニュースを見たら、ツールの②を開いて、そのぶんスライダーを動かすだけ。「+15%で原価率35%に届く」と分かっていれば、実際に上がってから慌てる必要がありません。
ニュースの読み方(3つの手順)
やってはいけないこと
天候による一時的な値上がりで、売価を上げること。キャベツは戻ります。でも売価は、一度上げたら下げられません。 「戻らないもの(原油・為替・人件費)が上がったとき」だけが、売価を見直すタイミングです。
上がったときに、できること
値上げは最後の手段です。先に打てる手が5つあります。
| 手 | 中身 | お客様への影響 |
|---|---|---|
| 1. 歩留まりを上げる | 捨てる部分を減らす。芯の使い方、切り方の見直し | なし。まずここから |
| 2. 仕入先を比べる | 同じ品質で他の業者を確認。産地を変える | なし |
| 3. 高い材料の比率を下げる | 比重の大きい材料を、味を落とさない範囲で調整 | 小さい(が、慎重に) |
| 4. 品書きの構成を変える | 粗利の大きい品を勧める。セットの組み方を変える | 小さい |
| 5. 売価を上げる | 最後の手段。上げたら下げられない | 大きい |
1が最初にくる理由
歩留まりの改善は、お客様に何の影響もないのに、原価が直接下がります。キャベツの歩留まりが75%から80%に上がるだけで、キャベツの原価は約6%下がります。 これは仕入価格が6%下がったのと、まったく同じ効果です。
ツールの「人前」モードで、改善前と改善後を並べて比べられます。